オーケストラ・ディマンシュ第12回演奏会


解  説

 アメリカは、大航海時代の先達が到着してその大陸の存在がヨーロッパ文明へと伝わるや、世界史の中に大きく浮かび上がって来た。爾来、数百年にわたり、アメリカ大陸の担う役割は徐々に大きくなっていったわけだが、特に独立戦争を経て新たな国家として成立したアメリカ合衆国は、数多くの移民からなる“人種の坩堝”として先住民族を含め様々な人種・文化を呑込み、肥大していった。特に20世紀に入ってからの2度の世界大戦では、その存在を確固たるものにするに充分な役割を果たし、今なお、世界の政治・経済・軍事・文化の覇者たろうとし続けている。現代日本にとっては、最も憧れ、かつ(本来それは近隣アジア諸国であるはずの)身近に感じる国であるといっても過言ではないだろう。
 ユーラシアという巨大な陸続きの一部であるヨーロッパ諸国から見れば、アメリカは大西洋を挟んだ別世界であり、新たな出発を求めて渡るべき世界であった。それは、インガルス一家が質素ながらも幸せに暮らした世界であり、若きドーソン青年が遂に辿り着くことのできなかった世界であり、イタリア移民ロッキー・バルボアがリングの王者となった世界である。現実世界でも、単なる開拓移民達だけではなく、その世界へ渡った文化人・芸術家も少なくない。そして明らかに、彼等も“アメリカ的”と呼べる文化を築きあげたのだった。一方、主に先住民族の文化を吸収し、自らの芸術を押し進めた人々もいた。彼等は、西欧からは劣っているとみられていた要素を躊躇いなく取り入れ、昇華させたのである。そうした作品の中でも、最も人口に膾炙しているといっても過言ではないのが、チェコ国民楽派の雄として、ニューヨークのナショナル音楽院の学長として招聘され渡米した、アントニン・ドヴォルジャーク(1841-1904)ホ短調交響曲『新世界より』(1893)である。もはや解説の必要もないとさえ思われるこの作品であるが、数多くの先住民族の民謡・黒人霊歌をインスピレーションの源泉とし、しかもなおドヴォルジャークのアイデンティティたるものを失ってはいない。それはおそらく、アメリカと云う新世界における望郷の念であり、ボヘミア民族であることを拠り所とした彼の創作ゆえのことであろうと思われる。同時に、第二楽章の有名な旋律が全くの創作であるにも拘わらず広大なアメリカの大地をも想起させるという点で、以後、H.ハンソンやA.コープランド、W.ピストン、R.ハリス、W.シューマンなどの多くのアメリカ交響曲で表現されるものと共通な精神的ルーツだとも考えられる。狩猟や農耕のうたが、アメリカを感じさせる根源的な響きのひとつであると感じるのは、些かこじつけに過ぎるだろうか。

 さて、アメリカへ渡った音楽家の中には、苦難の末に新天地を求めた人々がいたことは、常連の諸氏にとっては、これまで当団のとりあげたヒンデミット、ラフマニノフ、バルトークらの解説ですでにお馴染みの事実である。特に二次大戦の戦火とナチスに追われた音楽家は枚挙に遑がない。マーラーをして「天才だ!」と言わしめたコルンゴルトもその一人であった。既に歌劇で名声を得ていたコルンゴルトが新天地アメリカで確立したのが、それまでジャズやミュージカルナンバーが主であった映画音楽に重厚な管弦楽を持ち込んだシンフォニック・スコアというジャンルである。もとより、新しいメディアとして発展を続けていた映画には、サン=サーンスをはじめとしてオネゲルら六人組、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、ハチャトゥリアンなど、20世紀の作曲家達は軒並み手を染めている。コルンゴルトは、メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』の映画用編曲をはじめに、『シー・ホーク』を代表とする、ハリウッド・サウンドと呼べる華麗なスコアを残した。そしてその後、50年代以降のメジャースタジオの凋落に伴い軽音楽に占められていた映画音楽に、再びシンフォニック・スコアを復権させた作曲家が、ジョン・ウィリアムズ(1932-)であり、その復権を高らかに響かせたのが『スター・ウォーズ』(1977)であった。このジョージ・ルーカス監督作品と並び、スティーブン・スピルバーグ監督作品のほとんども手掛けた彼の作品は、最もよく耳にする映画音楽といってよいだろう。地球外生命体と少年の心の交流を描いたファンタジー『E.T.』(1982)、第二次大戦末期のノルマンディー上陸作戦中に敵地のまっただ中へと赴く部隊を通して人間の尊厳と命について描いた『プライベート・ライアン』(1998)、ナチス配下にあってドイツ人でありながら1200人ものユダヤ人を私財をなげうって救った実業家を描いた『シンドラーのリスト』(1993)、などなど、いずれも映画そのものも成功したものばかりであるが、そのヒットの影には音楽の持つ力があったといえよう。ウィリアムズの作風はコープランドやハンソンといった作曲家達に加えて、コルンゴルトやミクロシュ・ローザ(『ベン・ハー』)果てはプロコフィエフ(『アレクサンドル・ネフスキー』)、ウォルトンといった影響も見て取れる。その意味では、映画のシンフォニック・スコアの歴史を最も体現する作曲家であるといえよう。また「フラッグ・パレード」「運命の闘い」が有名な『ファントム・メナス』(1999)を含む『スター・ウォーズ』シリーズのように、ライトモティーフを用いた楽劇的手法からは、後期ロマン派直系の響きも聴き取ることができる。その響きこそが、同時に、より絢爛豪華たる“アメリカ”を感じさせ、映像を離れてなお感動を与える力(force)なのかも知れない。

May the force be with us !


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